しかし、彼がユダヤ人だとわかると、群衆は前よりも激しく騒ぎだし、手のつけようがありません。「エペソ人の偉大な女神アルテミス様、ばんざーい! ばんざーい!」と二時間も叫び続けました。
そこで彼らは、いけにえにする若い雄牛を祭壇に載せ、午前中いっぱい、「ああ、バアル様、私たちの祈りに答えてください!」と叫び続けました。しかし、何の答えもありません。ついには祭壇の回りで踊りだしました。
ほんとうの神を知らない人たちのように、同じ文句を何度も唱えてはいけません。彼らは、同じ文句をくり返しさえすれば、祈りが聞かれると思っているのです。
「このユダヤ人たちときたら、町をすっかりだめにしようって魂胆なんです。ローマの法律に反することばかり教えているのです。」
事件を起こしたのは、デメテリオという銀細工人です。この男は職人を大ぜい雇い、ギリシヤの女神アルテミスの神殿の模型作りを手広くやっていました。
ところが、ご存じのように、あのパウロとかいう男が、手で造ったものは神じゃないなどと不届きなことを言って、大ぜいの人にふれ回っているのです。おかげで、こちらの売り上げはがた落ちです。エペソばかりか、この地方全体がそうなのです。
この演説で人々は興奮し、大声で、「偉大なのはエペソ人の女神アルテミス様だ!」と叫び始めました。
そうこうするうちに、ユダヤ人たちが、群衆の中からアレキサンデルという男を前に押しやりました。演説させようというのです。アレキサンデルは、進み出て、静かにするよう身ぶりで合図しました。
とうとう市長が乗り出し、やっとのことで、なんとか話ができるまでに騒ぎを鎮めました。「市民の皆さん。エペソが偉大なアルテミス様の宗教の本山であることは、だれもが知っています。アルテミス様のご神体は、天からわれわれのもとに下って来たのです。
「姦淫は悪いことだ」と言いながら、なぜ姦淫するのですか。あなたは、「偶像に祈ってはいけない」と言いながら、なぜ自分は異教の神殿からかすめ取るのですか。
人々は、その獣を礼拝するばかりか、そんな不思議な力を授けた竜をも拝み始めました。彼らは大声で、「これほど偉大な獣を見たことがない。これにたち打ちできる者などいないだろう」と、喝采を送りました。